細胞伸展装置 Espoo -シリコン培養容器-
細胞伸展装置に取り付けられるシリコン培養容器を製作します.まず,アクリル製モールドを作ります.次に,このモールドにシリコン樹脂を流し込んで固めます.
材料リスト
販売元 | 品 名 | 型 番 | 数量 | 参考 単価(税抜) |
参考 小計(税抜) |
RS components |
アクリルシート, 500mm x 400mm x 5mm(3枚入) (アクリル製モールドの製作に必要な最小材料は, 190mm x 180mm x 5mm,1枚です.) |
824-525 | 1 | 7,327 | 7,327 |
ミスミ | 六角ボルト,M3,長さ30mm,SUS304 (安価なユニクロメッキのものでも可です.) |
HXN-SUS-M3-30 | 8 | 13 | 104 |
ミスミ | 蝶ナット,M3,SUS304 (安価なユニクロメッキのものでも可です.) |
CHNHR-SUS-M3 | 8 | 42 | 336 |
ミスミ | ロッド,外径5mm,長さ49mm,SUS304 (長い丸棒を自分で切断すると,より安くなります.) |
RDOS5-49 | 2 | 220 | 440 |
ミスミ | ロッド,外径5mm,長さ80mm,SUS304 (長い丸棒を自分で切断すると,より安くなります.) |
RDOS5-80 | 2 | 220 | 440 |
マルツオンライン | アクリサンデー接着剤 30ml | 1 | 520 | 520 | |
Amazonなど | 超高透明シリコーン Sylgard184 (1セットで培養容器を約25個作ることができます.) |
1 | 19,845 | 19,845 | |
参考 合計(税抜) | 29,012 |
細胞伸展装置の往復動ユニット製作のために厚さ5mmのアクリルシートを購入していれば,あまりの材料で製作できます.
step 01
加工データファイル
Adobe Illustratorで加工データファイルを作成します.レーザー加工機の仕様に応じて加工データを作らなければなりません.今回はOh-Laser社の小型レーザー加工機HAJIMEを使いますので,切断する線を太さ0.25ptの赤線で記しています.黒色で塗りつぶした部分は座グリ(彫刻加工)部分です.
また,レーザーカットする際に切り代が生じます.レーザー加工機の種類や加工パラメータに応じて切り代は異なります.原寸の加工データファイル「Mold.pdf」と切り代80umを考慮した加工データファイル「MoldOffset.pdf」を提供しています.OSFからダウンロードできます.
OSF (Open Science Framework)
step 02
加工データの転送
レーザー加工機の制御ソフトHARUKAに加工データを転送します.HARUKAは,Adobe Illustratorファイル(.ai)やPDFファイル(.pdf)の他,PostScriptファイル(.ps,.eps)や多くのCADソフトで使われているDXFファイル(.dxf)などを読み込むことができます.
step 03
アクリル板のレーザーカット
厚さ5mmのアクリル板(縦180mm×横190mmより大きいもの)をセットして,レーザー加工機のフォーカスを調整します.
まず,六角ナットの頭部分が収まるような六角形の座グリを加工します.加工データでは黒色で描かれています.あらかじめレーザーパワーと加工深さ(彫刻の深さ)の関係を調べておきます.このレーザー加工機では,レーザーパワー50%のときアクリル板に深さ1mmの彫刻を施すことができました.そこで,これを2回繰り返して,深さ2mmの座グリ(彫刻加工)を行います.
次に,切断加工を行います.今回用いたレーザー加工機では,素材に合わせた加工パラメータがあらかじめセットされているので,その中から「アクリル 5mm(速)」を選びます.また,この設定で同じ場所を2回繰り返して切るようにします.2回繰り返して切ると,アクリル板面に対する切断面の直角度が増すようです.
step 04
必要な部材の確認
アクリル板の保護シートを剥がして,他の必要な部材とともに並べました.
step 05
モールドの組立1
写真に示す7つのアクリル板部材を井形に組み合わせます.これを平らなところに置き,はめ合わせ部分にアクリル用接着剤を流し込んで接着します.
step 06
モールドの組立2
接着剤が乾いたら,長さ49mmのステンレス製ロッド2本をはめ込みます.このロッドは中子(なかご)となり,シリコン培養容器を把持するのに必要なロッドを差し込む穴を形成します.
step 07
モールドの組立3
穴の開いた平板にT型の部品を差し込み,アクリル用接着剤を流し込んで接着します.T型の部品を差し込む向きに注意が必要です.
step 08
モールドの組立4
step 07の平板に,正方形の部品を接着します.まず,丸穴が斜めに3つ開けられた部品を平板の3つの穴と合わせ,アクリル用接着剤を流し込んで接着します.次に,正方形の部品同士の位置を合わせ,同じようにアクリル用接着剤を流し込んで接着します.
step 09
モールドの組立5
3つの部品を重ね,六角ボルトと蝶ナットで固定します.六角ボルトの頭がきれいに収まるように,板には六角形の座グリ(彫刻)を加工しています.したがって,蝶ナットを回すだけで楽に締め付けることができます.
step 10
シリコン樹脂の準備1
透明度が高く,硬化後の細胞毒性が小さいシリコン樹脂Sylgard184で培養容器を作ります.主剤と硬化剤を10:1の割合で混合するのが標準的ですが,ここでは15:1で混合し,より軟らかい培養容器にします.
主剤30ml,硬化剤2mlをプラスチックチューブに入れてよく混ぜます.2つの液体はともに粘度が高く,(特に主剤は)取り扱いが厄介です.フィルム状の内蓋が付いた容器で届きますので,写真のように,カッターで少しだけ口を開けて注ぐようにすれば使いやすいです.
また,シリコン樹脂は容器の壁などに付着するため,作った分量すべてを使えるわけではありません.余裕を持って,十分な量のシリコン樹脂を作っておかなければなりません.
step 11
シリコン樹脂の準備2
主剤と硬化剤を混ぜると,内部に気泡がたくさん入ります.このままモールドに注ぐと,気泡がたくさん残った培養容器になってしまいます.遠心したり減圧したりして,脱泡させます.右の写真は遠心機を使って1分間ほど遠心した溶液です.
このままモールドに注いでも良いですが,モールドに開けた小さな穴から注ぎ入れるのはなかなか大変です.そこで,注射器を使って注入することにします.
step 12
シリコン樹脂の準備3
注射器の先端をテープなどで塞ぎ,シリコン樹脂を注ぎます.このとき気泡が巻き込まれてしまいますので,減圧して脱泡させます.
真空装置に入れて真空ポンプで減圧すると,盛んに脱泡します.数分〜10分ほどすると,気泡の発生が落ち着きます.
step 13
鋳込み
注射器の先端をモールドの注ぎ口に入れ,シリコン樹脂を注入します.気泡が入らないように注意します.
最後は注ぎ口から少しはみ出るくらいにシリコン樹脂を盛っておきます.
step 14
硬化
加熱してシリコン樹脂を硬化させます.温度と時間は用いるシリコン樹脂によって異なりますが,Sylgard184の取扱説明書には,150℃-10分,125℃-20分,100℃-35分,25℃-48時間などの例が挙げられています.モールドはアクリル製なので,あまり温度を高くすることはできません.今回は,80℃で1〜2時間かけて硬化させました.
step 15
取り外し
80℃で硬化させた後,室温まで戻し,できあがった培養容器をモールドから外します.レーザーカットして作ったモールドなので,完成した培養容器を抜き取るための「抜き勾配」は考慮されていません.また,シリコン樹脂を剥がしやすくする離型剤も使っていません.そのため,培養容器をモールドから外すのはなかなか大変な作業になります.培養容器を壊してしまわないように注意が必要です.
シリコン樹脂が硬化前にモールドの隙間から漏れてしまい,できあがった培養容器が欠けてしまうことがあります.その場合,一度目の培養容器は不良品として廃棄し,アクリル板の隙間で固まったシリコン樹脂はそのままにしてモールドを再度組み立て,二度目の鋳込みを行うと良いでしょう.あらかじめ硬化したシリコン樹脂が隙間を埋めていますから,そこから漏れ出ることはなくなります.
step 16
バリ取りとロッドの取り付け
モールドの注ぎ口部分やバリを切り落とします.
最後に,長さ80mmのステンレス製ロッド2本を差し込みます.シリコン樹脂の穴にそのまま差し込もうとすると非常に大変ですが,エタノールなどで表面を濡らすとスルスルと入ります.
step 17
完成
データファイル
細胞伸展装置Espooを製作するための加工データファイルやソフトウェアはOSFというファイル保管場所を通して提供しています.こちらからダウンロードできます.
Open-Source Cell Extension System Espoo
また,この装置の開発に関する論文がHardwareXというジャーナルに掲載されました.
https://doi.org/10.1016/j.ohx.2019.e00065